おなか

はんぶん隠れて生きていたい

包まれる

うちのお母さんのおにぎりは、固い

米と米とがびっちりしていて噛み応えのあるぎゅっとしたおにぎりだ

私はずっと、おにぎりが全く好きではなかった お母さんの固いおにぎりも嫌だったし、コンビニのおにぎり食べた時に海苔が口の中にくっつく感じとかも嫌だった

後々知ったのだが、お母さんは小さい頃、母親(祖母)が忙しすぎていつも叔母さんにおにぎりを作ってもらっていたらしい その叔母さんのおにぎりは、とっても柔らかくて噛むとすぐ崩れてしまう感じのおにぎりだったらしい だからうちの母はおにぎりを、その反動で、強く握るのだと聞いた

理由がある、何も悪いことなんてないし、固いおにぎりも柔らかいおにぎりも、どっちでもいい

 

うちのお母さんは、朝の4時頃から6時半頃にかけて出かけて行く 私が中学校のときに所属していたソフトボール部はそこそこ強くて、土日は遠征に行くために朝早いことが多かった そんなときに用意されていた朝ごはんは、お母さんが出かける前に握っていった、冷たくて固いおにぎりだった 私はそもそもが運動音痴なので、部活に行くのがめちゃくちゃ嫌だったから、朝早く起きて、とくに冬、冷えた部屋でそれはそれは冷たいおにぎりをかじって(食べるというよりはかじるという表現が適切)いるときの、なんとも言えない切なさは、今でも私を不安にする たまに、お母さんがおにぎりを作れなくて冷凍の3個入りのドリアを自分でチンして食べてねっていう置き手紙があったときは、むしろ嬉しかった でもね、お母さん、朝早くにおにぎり握ってくれて、弁当作ってくれて、ありがとうと思うよ お母さんはいつまでもお母さんだ、お母さんに会いたい

 

そもそも私たちは包む/包まれることが好きだよね 服を着ること、毛布に包まれること 、誰かに抱きしめられること、抱きしめること、餃子を包むこと、プレゼントを包むこと、大事なものを包んであげたいと思うこと、世の中には、包んだり包まれたりするものが溢れていて、それら全部が愛おしい、狂おしい 私の記憶を埋め尽くしているものは、埋め尽くしたいものは、大切に包んだり包まれたりしていたその全ての記憶だ そもそも、私たちがお母さんのおなかにいたとき、完全に包まれていたわけなので、そんなの絶対居心地がいいに決まっている 包む/包まれるという行為は人生において1番約束されている「安心」の正体なのかもしれない 

 

昨日、おにぎりを二つ食べた 今日、餃子を食べた 包まれていた せっかく包まれていたものをギザギザの歯で噛んで食べた おいしかった でも、それらが包まれていたことを考えると、バラバラになった でも、包まれていたのは確かだ

私は、お母さんのいなり寿司大好きクラブである いなり寿司は包まれている 包まれているから好きだ 簡単にバラバラにはならない 

ポーチが好きだ 何でもかんでもポーチに放り込んで、たくさんポーチをかばんにいれることがすきだ ポーチさえも包まれていた

 

私は今日も、わざと薄着で、毛布にぐるぐる巻きになって寝るね、朝起きたときにはだけてたって、また包まるね、お腹を冷やさないようにするね、健康でいるね、健康でいようね、健康でいてね 包んだり包まれたりしようね